さようなら栲さん

桜舞散る中、栲さんの訃報を聞いた。初めて栲さんにお会いしたのは、まだ、首くくり栲象と名乗る前のことだった。大野一雄先生が定期的にスタジオ公演をされていた時に観客としていらしていた栲さんを慶人先生から大切なお客様とお聞きしてお宅まで送らせていただいたのが、出会いの始まりであった。自宅に着くと「みていくかい」とおっしゃりその日の首くくりをはじめられた。のちに庭劇場と名付けられたその場所で、真夜中の暗闇の中で宙に浮く肉体をみたときにまるでシャガールの絵の世界が目の前に現れたような錯覚を覚えたことを今でも鮮明に思い出す。

それから栲さんとの長いおつきあいが始まった。一雄先生の介護をしているお礼だからとおっしゃり、二度の白州に美術として同行してくださり、ソロ公演「雅な鳩」でも美術を担当してくださった。

白州で黒沢美香さんとの出会い、加藤君がきっかけをつくってくれたとおりにふれて話してくださった。人に紹介してくださるときも「大野先生を介護していた」から「僕と美香の出会いのきっかけ」の加藤君にいつのまにか変わった。

二年前、栲さんから一緒にやろうと再び声をかけてくださり、初めて栲さんの首くくりと踊ることが出来た。「やりたい場所は、ありますか」とお聞きすると大野一雄舞踏研究所と即答された。慶人先生にこのことを相談すると快諾してくださり、公演「十」が実現した。この公演の中で栲さんは、7回の首くくりを行いまさに命のやり取りとなるような舞台を経験させていただいた。

公演「十」の十は、想いが混じり合う十字路の十でしたね。栲さんの肉体は消え去ってしまったけれど重なり合った思いは忘れることなく、私の中に生き続けます。

栲さん、今まで本当にありがとうございました。安らかな眠りにつかれますよう、お祈り申し上げます。

公演十集合写真
撮影:Hitomi Hasegawa
大切な思い出の1枚